2013年10月17日木曜日

政治決着できる慰安婦問題 朝日 野田6

(社説余滴)政治決着できる慰安婦問題 箱田哲也

ちょうど1年前、韓国の李明博(イミョンバク)大統領が日本に送った特使と野田佳彦政権の斎藤勁(つよし)・官房副長官らが、従軍慰安婦問題の政治決着に向けた最後の詰めを急いでいた。

野心的な試みは結果として時の壁に阻まれた。だが同時に、トップの意向次第で乗り越えられる問題である、ということも裏付けた。

慰安婦問題をめぐっては法的に解決済みだという日本に対し、韓国は別途に交渉の必要があると主張し、平行線をたどってきた。

一昨年の年末の首脳会談で「知恵をしぼる」と約束した日本政府は昨年春、折り合えそうな案を示した。それが実らなかったのは、支援団体の反発を恐れた韓国の外務官僚らが消極的だったためだ。大統領には当時、日本案の詳細が伝わっていなかった、という複数の証言がある。

秋になって日韓は政治決着に向け、急接近した。最大の焦点である「責任の所在」について、表現調整にかかわった日韓の関係者らは「ほぼまとまりつつあった」と口をそろえる。しかし、衆院の解散宣言で計画は霧散した。

政治決着とは、慰安婦問題での対立に両政府が終止符を打つことにほかならない。

「韓国政府が同意しても、支援団体が納得しなければ問題は解決しないだろう」。こんな声は根強い。確かに韓国には、法や規則より「道理」が先にたつような面があることは否めない。

だが、果たしてそうだろうか、とも思う。

軍事政権の終わりを告げた宣言から四半世紀。国民所得も格段に上がった。新たな政府間の合意は、昔とは異なる重みを生みはしまいか。
「安倍首相が慰安婦問題で和解するはずがない」。そんな声も聞こえる。

それでも首相は国会で「筆舌に尽くしがたい、つらい思いをされた(元慰安婦の)方々のことを思うと非常に心が痛む」と述べた。国連総会では、慰安婦に触れずに韓国の反発を招いたものの、紛争下の女性の権利重視を訴えた。

慰安婦問題の決着に向けては2年前、韓国憲法裁判所が出した決定が、日韓の背中を後押しした。この間、元慰安婦12人が亡くなった。存命の被害者は56人になった。

実現可能な解決策とは何なのか。救済すべきなのは誰なのか。日韓双方が問題の本質を被害者の救済ととらえるなら、互いに譲歩しての政治決着以外に道はない。

(はこだてつや 国際社説担当)

朝日 2013.10.17
http://digital.asahi.com/articles/TKY201310160783.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201310160783